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「ちょうど良いベンチがある」
光源電球が蒼く光るたびに、君のマフラーが蒼に染まる。
「内部で見ると、案外淡い光なんだね」
360度グラスアクリルの窓辺で、ミカ君は水平線を見ていた。
「たぶん、灯台守のためにね」
HyLAでも、誘導灯火の色は遠くで鮮やかに、近くで淡く光るように設計されている。
「だからこんなに優しいんだ」
ミカ君は隣に座って、灯台の灯に目を輝かせていた。
「茶色の表紙の本……あれさ、俺の姉が書いたんだ」
「サブローの、お姉さんかぁ」
「……うん」
隣にいるのはよく知ってる子なのに、なぜだかそこに、家族がいる気がした。
……懐かしい、風の色。
「サブローの誕生日会の時にさ、声、流れてた人?」
「——なんで?」
「なんとなく」
「……そうだけど」
「……そっかぁ」
心が軋んで、それから包まれる気がした。
「なんで?」
応えがわかる気がするのに、繰り返したくなる。応えが返ってこなくても構わないのに。
「たくさん、組織に貢献した人だって、みんなが。サブローのお姉さんなんじゃないかって思ってたの……よ」
自信なさげに目を泳がす君が、それでも強く拳を握るのが見えた。
「ごめん」
「いや、聞いて欲しかったんだと思う、誰かに」
……たぶん君に。
遠くの緑の島に、光が反射するのが目の端に焼き付いた。




