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月を映す田園に、揺れる秋桜——。
エリア栃木、佐野秋山川中腹に広がる黄金の小さな田園の景色は、どこか懐かしくて、綺麗だった。
箱庭のような、小さな土手に仕切られたその景色と、秋色の灰色の夜空。
ゆっくりと散歩したい気持ちになるけれど、不思議と違和感のない、けれど、どこか怖くもあるモニターに映る景色を眺めて、アタシは息を吐いた。
田園の中に、とりわけ大きな可愛らしい、今にも咲こうとしている秋桜の蕾——。
それは記憶野原で丸まって泣いていた、母の姿のようにも、アタシの心のようにも見えた。
守るように、赤い目をした巨大兎が月夜に立ち塞ぐ。
「みっちゃん、あの巨大兎は、見た目よりは速くない。落ち着いて避けよう。玲鷗!」
「オーケー、宗二!巨大兎は任せろ!」
コックピットの通信機から、玲鷗の声響く。
コックピットのシュウジの席には……宗ちゃんが座っていた。
「みっちゃん、玲鷗が巨大兎を引き付けている間に、ハイドロレイダーで巨大秋桜を殲滅しよう」
「うん!」
ウサギとは、僕は戦えない。——シュウジはそう言ってレイダーを降りた。シュウジの学年で、ウサギの世話をしていたことがあったからだ。
(幸子もウサギを飼ったことがあるとかで、ヘブンズレイダーも今回は出ていない)
宗ちゃんは全てのレイダーに適性があったけど、アタシはハイドロレイダーにしか乗れなかったから、ハイドロレイダーとナノゲイルレイダーが出撃することが決まった、つい先ほど。
宗ちゃんの操縦は不思議なほどに、まるでアタシの動きを知っているかのように、アタシのタイミングにぴったり合った。
まるでそこにシュウジがいるみたいに。




