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登ってみようか。
声にせずとも、隣のこの子はこく、と頷いた。
灯台守に挨拶し、格子の門を開けてもらう。
灰色の階段は、たし、と足音がして、なぜか心地よかった。
……こういう塔を何度も登った。
人生でも、心でも。
「ミカ君、随分体力ついたねぇ」
「え!?ま、まぁね!!」
軽々と登っていく少女を、ずっと見守ってきた。
その羽が広がる景色を、俺は予期していたのかもしれない。
かたすみで、痛みを隠しながら。
「大丈夫?」
「ちょっと最近寝不足で……」
「寝不足にはバナナよ」
「いいね」
「シュウジが教えてくれたんだけどさ」
「シュウジ君か……なんでも知ってるよね、謎に」
「まぁね!」
自分が言われた時より心地よさそうに君が笑ったのが、君らしい、と言える今が俺の世界だ。
階段が、続くにつれて返って鼓動が穏やかになる今がある。
窓から、光が差し込んでいる。
「ミカ君、気をつけて」
「大丈夫っ」
足元が狭くなっても、目的地はすぐそこだ。
「これだよね?」
ゆきどまりに、小さな扉。
それはなんの変哲もなくて、それが返って、懐かしい感じがした。
「開けるよ」
白波とブルースカイ。
水平線に島が浮かぶ。
「いいね……落ちつくっていうか」
君の瞳が輝いているかは見えないけれど、俺にはわかる気がした。




