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ビュォォォォオオオオオ……——ッ!!!
寒風吹き荒ぶ朝靄の中……
後ろは、崖。
目の前には、黒いセーラー服をたなびかせるミカ君。……——が、どこか姉を思い出せる。
中学生の頃の姉に、よくこんな風に(いや、崖っぷちに呼び出されたことは流石に無いけれど……怒っているような……心配——してるような表情で、夕陽の丘に連れ出されたりした)
今はもう、セピア色の記憶だ。
「なん……でしょうか……?」
刺激しないほうがいいのだろうか……
こういう時、俺は勝てない……ことに安心する自分もいる。
「来てもらって、すみませんっ!」
なんか丁寧?だけど、ミカ君怒ってるよね!?
……波が、岩に当たって弾ける音がする。
「雪子さんが、ここでロケしてて……朝早くにすみません」
それ俺も観た。犯人?俺犯人なの?
「えっと」
風の音が止んで、ミカ君の鼓動が聴こえる気がする。
潮の香りがしていた。
波が、止まっていた。
見覚えのある装丁に、自分自身の呼吸が止まる。
近づくと、ミカ君も距離を縮める。
その手に茶色の装丁を持って。
打ち消したい疑念を、仲間のこの子に悟られまいと笑顔をつくるけど、うまくいかなかったみたいにミカ君は顔を曇らせた。
「教えて、全部。何があったのか」
夜明けの日差しが、過去から降り注ぐように姉の姿と重ねた。




