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「そうです」
理由はわからないけど、知っていてくれたことが嬉しかった。
灰色が好きな自分を、雪子さんに隠さなくていいことに。
でも、なんで好きかを話すには、まだ勇気が足りなかった。そこに笑顔が在るのに。
……代わりにアタシは雪子さんに貰ったピンキーリングに触れる。
「雪子さん、サブローは寂しいって思ったりとか、するんですかね」
少し、驚いたような顔をして、雪子さんは真っ白なキャンディをひと粒手に取った。
ルビーのように光輝く雪子さんに、なぜか似合うその白は、雪もやにかけられたみたいに、コーヒーの湯気の向こうに消える。
「別に、寂しくないんじゃない?」
「え……」
「私は、大丈夫だと思うわよ?」
力強い笑顔を信じてしまいたくなる。
それが優しさだったとしても。
「三島君が応えてくれないこと、在った?」
……在った。いや、無い。
無い、無いんだよ……——けむに巻くようなことは在っても、サブローが応えないというのは見たことがなかった。
サブローは、来たい時にウチに来て、楽しいんだと思っていた。
でもサブローが家族のこと……とりわけ、兄弟のことを話さないようにしてたことを、アタシは気づいていたこと……今分かってしまった。
「ミカちゃん!私のせいで……こういうとこ私……」
「雪子さん、それ、幸子も思ってないです!」
誰かがいないとわからないこと……
「雪子さんのおかげ……です」
灰色のキャンディをアタシは手に取った。




