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薄明のハイドロレイダー  作者: 小木原 見縷菊
偽りの秋桜……——可視懐え、祝宴の空
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「こういう場所なんだ……」


 アタシたちは一億個の星の海の中から、二つの球体を探した。


「……綺麗」


 不謹慎にも、そう思った。


 草原に浮かぶ球体は、小さい頃三人でみたホタルにも似てる。


「心で探すんだって。ほら、あれだ」


 母が示した薄闇の中から、寄り添う二つの小さな球体がやって来て、アタシたちの周りをくるくると回った。


 それに触れると、優しい名前が流れ込んでくる。



 雨沢光一郎あまさわこういちろう——。


 雨沢あまさわ三智子みちこ——。



 覚えてもいなかったような記憶と、心に焼き付いた二人の笑顔が流れ込んで来て、涙が溢れる。


「う、う……うぁ——ああああぁぁあ!!!!」


 アタシは叫ぶように、泣いた。


「悲しい!寂しいよ!!!!」


「母も寂しいよ!!!!!!!」


 どれくらい泣いたかわからない。気づくとアタシの嗚咽おえつは変な咳き込みに変わっていて、母は泣き止んでいて、アタシの背中を撫でていた。

 しくしくと泣いている弟が、饅頭を差し出してきたのに今、気づいた。


 背中の手があったかくて、なかなか涙が引っ込まない。


「なん……これ……、不謹慎が過ぎる、でしょ」


 草原に座って、記憶饅頭と刻印された光る饅頭を食べる。


 それは甘くて、美味しかった。


「さっき、売店にあったから……」


 弟も、母も草原に座って饅頭を食べた。


 アタシたちはあの日以来初めて、下の家族のことをちゃんと話した。


 居なくなって寂しい。一緒に食べるご飯が美味しかった。優しくしてくれた。褒めてくれた。イタズラして叱られた。沢山のことを教えてくれた。

 それぞれが閉じ込めていた記憶が、溢れるしずくのように弾けて甦り、再び心を満たしていく。


 こんなにも大切な記憶たちが、悲しみの中に甦っていく。


 別れは、記憶に鍵をかけていたのかもしれない。

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