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「失敗ばかりだったけどね。」
二人で、イチョウを見つめる。
レモンの味が、喉を過ぎてく。
エリアBのジンジャー・レモネードは、確かに秋に似合う気がした。
「私も……なんです」
この茶色の本は、HyLA本部の図書室で見つけた。
飾りの少ないこの本に、アタシは物語を求めた。
歴史を綴るには、アタシはまだ足りな過ぎて、さきゆきを見失っていた。
いつもの物語に、逃げたくはなかった。
それでもアタシは、物語を求めた。
小松さんは本から目を離し、アタシを見つめる。
「いなくなってしまったのよ。急にね」
サブローの顔が過ぎる……——
「IOP消失……ですか?」
「いいえ。もっと前よ」
「大丈夫……ですか?」
小松さんは驚いたように目をぱちぱちした。
「……ありがとう」
大丈夫って言えない時がある。
母もそうだ。
でもそういう風に言えない時こそ、後ろ姿を見せてくれる。
「それ、読めた?」
「実は……用語が難しくてほとんど読めていないんです……」
「ほんとだ」
彼女はくす、っと笑い、ぱらぱらとページを。めくる。
「ミカちゃん、いつか読めるようになるわ。だからこれは返すわね」
小松さんは、いつもの穏やかな雰囲気に戻って、自分の分のジンジャー・レモネードを、嬉しそうに落としていった。
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ほとんど毎日読んでくださっている方の目のために
水曜日をお休みにしています。
いい週中水曜日を◎




