662
「今週の、アトラスフリッカーを発表してください——」
……小松さん、会議中だ……
アタシはエリアBのブリーフィングルーム(大)の丸窓から中を覗いている。
うしろ手に、こげ茶の本が、こころもとなくゆらゆらしてる。
……お、終わったみたい。
「ミカ君?」
「サ、サブロー……」
会うとは思ってなくて、転びそうになったのを、小松さんが支えてくれた。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫です……」
どうしよう……サブローに直接聞くか……でもなんとなく、サブローは話してくれることは、もう話してくれていると思うのだ。
「こ、小松さん、相談があって……」
「? いいわよ」
サブローも特に気にする様子はなく、ぴかぴかしてる灰色の廊下を歩いていくのを見送った。
「えっ」
エリアBの屋上カフェテラス……サファイアブルーの空に、吸い込まれそうになる。
「ミカちゃん、何のむ?」
「えっと……」
相談しようと思ってたことと、アタシの好きなことが、くるくると絡まって足元を見つめてしまう。
「オススメにしとく?エリアBカフェのおいしいのがあるのよ」
そう言って、小松さんはアタシをイスに座らせて消えた。
白いビーチパラソルの向こうに、雲がきままに流れている。
季節はもう秋だと思う。
それでも白くて、夏みたいな空だった。




