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こげ茶の表紙の本の中には、よく知ってる姿がいた。
……違う、サブローじゃない、似てるけど。
セピア色の写真なのに、今風のヘアスタイル。黒い、サングラス……
オータムコート、みたいな長袖が、海面に浮かんでいた。
たぶん、水の上に浮かべてピクニックをする時の、ホログラムレジャーシートと同じ仕様だろうか。
その上に、サブローと同じような姿で、白衣の男が立っていた。
「この日付……」
IOP消失よりもずっと前の歴史……
そうすると、サブローの筈は無かった。
ガチャ、——ドアノブが鳴って、母が入ってくる。
「おかえりー母」
「ただいまーミカ、本読んでるの?」
「うん」
ジャケットをかけて、母が手を洗いに行った。
アタシは一旦表紙を閉じて、再びエプロンを付けた。
「え、いいんだよ、母がやるよ」
「大丈夫大丈夫、ミルク粥作っといたんだよ。母好きじゃん」
「たしかに。じゃ、お願いね」
「ウィー」
にんじんの香りと、ミルクの風味がゆっくりと浮かんでくる。
母は……知らないかもしれないな、HyLAに入ったの最近だから。
困った時の小松さん……
小松さんのあったかい顔が、湯気に重なる。
ちゃぶ台に、ミルク粥ときゅうりのピクルスをことこと並べていく。
自分にもちゃんと、麦茶を注いでアタシは再びこげ茶の表紙に目を向けた。




