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メロウな音楽が、心の側で流れている。
この目標に寄り添うと決めてから、ずっと。
とんとんとんとん……
きゅうりを切るのが少しだけ上手くなった。
IOP消失後、なにかをしてる時に音楽をかけようなんて気持ち、忘れてた。
母がいない時は、いつもシュウジにつくってもらっていたけど、今夜はアタシが作ってあげようとおもう。
食後にはカフェオレも淹れてあげよう。それくらい、いい気分だ。
……シュウジが淹れたほうがおいしいんだけどさ。
ま、やってみよう。
具合が悪いわけじゃないけど、野菜がたっぷりのミルク粥を作る。
沢山本を読む前に食べるとなんか、具合がいいんだよね。
小さいキッチンで、ちょっとステップ踏んだりしてお粥がくつくつするのを見つめる。誰もみてないからいいよね?
猫のエプロンを冷蔵庫の取っ手に引っかけて、深い碧のスープ皿に、お粥をよそう。
結構おいしくできた!!!
オルゴールみたいな音色が、さいきん涼しくなった夜空に昇っていく。
「もう、秋なのかもな……」
猫を撫でる。
ひんやりとした座布団の端に指が、するりと心地よかった。
「よしっ」
食器を片付ける。ちゃんと、きれいに洗う。
すっきりとした気持ちで、エプロンを冷蔵庫にまた掛ける。
「えーと、なになに?」
こげ茶の表紙の本をめくる……
「エリアZ……」
忘れられた場所……っ!!!
その写真には、サブローの姿が在った。




