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「なんか今夜の月、楓ちゃんを思い出すね」
灰色の夜空に浮かぶ猫の瞳みたいな金色、ふっくらアーモンド。
楓も……いつか変わるのだろうか。
「楓ちゃんは楓ちゃんじゃない?」
アタシの心を見透かしたように、幸子はウインクをする。
「あ……幸子、こんな感じで良かったの……デスカ?」
ボートを漕いで、いつもみたいに公園で缶ミルクティーで乾杯して、空を見上げる。
マックスやシュウジの最近の話ばかりで、幸子は特に自分の話はしなかった。——キラキラの水面は綺麗だったけど。
太陽が沈むまで、取り留めの無い話。時々深呼吸する。
振り返ると、あまりにもいつもの感じに思う。
「いーの☆なんかね、いい歌作れそう。ミカのおかげでね!」
暗くなって、本当の色に戻した髪に、月明かりが落ちる。
さらさらのミルクティーが、絹みたいに夜風に揺れた。
そうかもしれない。
アタシたちは同じ幸せの中に、また新しい幸せを見つけるのだ。
「アタシもがんばる」
月と夜風が、泣きたくなるくらいに綺麗な夜。
アタシが見たこと、考えたこと、HyLAに起こった悲劇も、これからみんなに起こること、ちゃんと知りたい。
「幸子、アタシ……」
「ん?☆」
幸子の飴色が、頑張れと言っている気がする。
「アタシ、歴史を遺しておこうと思うんだ」
シュワッ……——といういつかの残像が、月明かりに弾けた気がした。
◯◯◯
「C・マクスウェルさんですよね」
その名前で、呼ばれると思わなかった。
HyLAではマックスだったから。
「そうですよ、ありがとう」
俺に、気づいてくれて。覚えていてくれて。
俺より年上かもしれない、年下かもしれない。
はにかんだ笑みは、心が温かくなる。
「いつかまた、音楽やるんですか?」
たぶん、とか、どうだろう…とか、今は言いたくなかった。
「えぇ、きっと」
諦めない限り。
見てますね、と言ってくれた瞳は、美しかった。
「光栄です……」
後ろ姿に、感謝の気持ちを込めて、明日もまた——




