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風がはらりとふいて、銀杏の黄色が、幸子の髪に落ちる。
深く被ったベージュのフードから伸びたツインテールは黒く変えられていたし、フードの奥にきらきらしてる瞳も黒に変えられていたけれど、幸子は久しぶりにゆったり、楽しそうだった。
水面に、赤や黄色がふわりひらと落ちていく。
アタシは静かにオールを動かして、オールディな黄色のボートをくるりと動かした。
あんなものを貰っておいて、これでいいのかわからないけど、秋生まれの幸子は誕生日に、公園でボートに乗ることを望んだ。
「やってみたかったんだ☆」
由子さんがくれた手作りのブランケット(なぜかアタシも貰ってしまった……!)を幸子は膝に掛け直して、眩しそうに吉祥寺の空を見上げる。
「ねーミカ☆今度は私が漕ぐよ☆」
「え、だって幸子がお誕生日サマじゃん。いーよ、アタシにやらせてよ」
これぐらいは……思い出に、なってほしいし……ってほんと、こんなんでいいのかって話なんだけど……
「やりたいのー☆☆ほらっ!……わ、わわっ!けっこーむずぅ☆☆☆」
……心から楽しそうな幸子の笑顔に、ちょっとホッとする。
確かに。……お金じゃないのかもしれない、というか。そうだよね。
アタシは昔に母がしてくれたことを、吉祥寺の空に重ねた。
湖面は星屑を零したみたいに煌めいて、懐かしい記憶に潤むのを、アタシは幸子に見せないようにした。




