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信じられる、確かな思いや好きなリズム、フレーズや景色は、これからいくつも生まれるだろう。
……とはいえ、今回レコード会社が作ったシステムは絶対のものではないそうだ。そうきっと、信頼を正確に量る機械は生まれない。
感情が変わるのが生き物だから。
信頼を固定することは出来ないし、次の瞬間には変わってしまうからこそ、今を大事にしたり、未来に願うのだ。
でも、ミュージシャンとしてのC・マクスウェルのひとつひとつの言葉は、シュウジやアタシの心に届いたし、マックスのリズムを、また聴いてみようと思ったのは事実だ。
いやわかんない。シュウジや、新生ダンデライオンチームはとっくにいつも通りな気もしてる。
けれど、マックスのオフィシャルな姿を真剣に見ていた瞳は事実だ。
そして、その映像内でも、日々のニュースでも——……マックスがAIdであることが公表された。
ひとつは、今後、同じ事例が起こることが想定されるという警鐘と、その際の責任の所在を明らかにするため。
HyLAで検討を重ねた結果、マックスは人権を獲得し、HyLAの保護下で生活することが発表された。
なによりも、マックス自身、同じようなケースの見本形になる意思を、世界に伝えるためだ。
けれど、アタシたちは既に、人類以外のAIdと寄り添いながらこの惑星で生きてきたのだ。
AIdが進化の過程でヒトを選ぶとしても、希望は数限りなくある。
それがHyLAの結論だった。
「サチコ、お醤油取って」
「届くでしょ、腕長いんだから!」
「ま、まだ怒ってるの?幸子……」
「ほっしー、サチコはいつもこうだよ」
あぁ……まぁそうかもね……
「おいしーね⭐︎新米⭐︎⭐︎⭐︎」
「ん!」
アタシは何年かぶりの、いつもの秋の風味を噛み締めたのだった。




