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日中、暑さの残る日々。
それでも夕方には涼しい風が吹いている。
開いた窓から秋めく予感と、ふかふかの白米の匂いが混ざってなんとも言えない気持ちになる。
マックスが幸子に許されたのかはわからないけれど、幸子は先に部屋にいて、秋鮭とキャベツのコールスロー、お味噌汁を静かに食べていた。
許された、という表現が相応しいのかもわからない。
幸子が悪くなかったのかも分からないし、マックスが悪いのかもアタシには判断が出来ない。
それでも、マックスは謝罪を続けた。
仲間に対して、そして世界に対して。
レコード会社が開発した、購入歴、TV、ラジオの視聴ログにより発生した信頼率を辿り、マイクロホログラム動画が流れるシステム——
つまり、星ヶ咲家の場合は、マックスのセカンドレコードを手にした時に、ジャケットから小さなマックスの姿が浮かび上がり、信頼を傷つけてしまったことを謝罪する姿が映し出された。
一度でも、C・マクスウェルに信頼を寄せた人に対して、レコードや楽譜、CMなどを介して映像が届くシステムをレコード会社の人たちが開発したのだ。
ホーリーチェリーが根付いて、完全に止まった筈のテクノロジーの進化がまた動き始めているのだと、アタシは不謹慎にも、そう思ったのだった。
◯◯◯
「姉よ」
「何よ?」
このところ、私室に寄って帰る日が多いものだから、弟に、なんだか久しぶりに会った気がする。
「あの部屋の名前ですけどさ、代表して、弟であるわたくしめが付けさせていただきましたんけどさ」
「ほぅ」
まぁいいか。あの部屋は正直、嬉しかった。たまには心して、聞くとしよう。
「Gemini's starry baseです。姉が生まれたことを、ずっと嬉しく思っていられるようにね。皆んなの星みたいな気持ちを込めてさ!」
「なっ」
アタシに言ってんの!?……そんなこと——
「くっ!」
弟はたまにこういうところがあるっ!!!
確かに、本は星みたいなところもある……けれど。
「あぁぁぁ……あっそ!」
でもあの空間に一人でいる時こそ、一人じゃないと思えるのだ。
弟にも、皆んなにも、そういう標がどうかありますようにと、熱が籠る心の内側でアタシは願った。




