648.5 手記33
ホーリーチェリーが消失した。
薄明の、光の向こうに。
心のどこかでは——ほんの片隅の向こう側では、自分が乗ることを想定して作ったコックピット。
俺は……なぜ外から見ていたのだろう……
——こんなにも、思いがあるのに……
君のおかげだ、という熱い言葉が、小松さんや機関の人たちから変わるがわるに届いたけれど、受け入れられない俺に、三島さんは言う。
「星ヶ咲一家の覚悟が、最終スイッチになってくれた。でも」
やけに生温い夜だった。
「確かに、シュウジ君とミカ君は、本当に信じられないことをしてくれたよね。智恵子さんの覚悟も。でも一家の思いは、俺たち全員と同じだって思ってるんだよ」
最近眠れない。
深夜の月が、窓の外に白く浮かぶ。
それは優しくて、鋭利な爪で心を捉えようとする月だ。
「君の功績は、君の思いは、間違いなく星ヶ咲と同じだし、君は雨沢でもあり、星ヶ咲でもあるんだろ?」
ずいぶん会ってなかった。
たまに訪れるシュウジの話を、ちゃんと聞けたのは最後、いつだっただろうか……
「悔しいって思ったり、申し訳ない気持ちになるより、家族に、ありがとうって思ったほうがいいと思うんだ」
三島さんが、ハイドロレイダーに乗りたかった筈だ。ブレイズレイダーにも……三島さんだけじゃない。機関の人は皆、自分が賭すことを望んでいる。
「きっといつか、自分の武器が持てるようになると思ってるよ。きっとね」




