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「ミーカ☆☆☆」
昼間の不機嫌……不安?……悲しみ、だったのかもしれない。何も無かったように、幸子はプリズムをふり撒いた。
裏路地の楡の木には、オレンジの街灯の灯りと、夕方の空気がふんわり映っていた。
「おつかれー」
「おつかれー☆まだ暑いねー☆」
裏路地の飲食店は、夕ご飯の香りやグラスを合わせる音で活気づいており、穏やかなランタンたちがいろんなところでぼんやり、輝いている。
「暑いねぇ」
「あー☆お腹空いちゃったー☆今日の夕ご飯なにかなー☆」
「昼間、あんなにドーナツ食べたのに?」
さりげなく、昼休みの話題に誘導する。
幸子は口をむ、と噤んでから、アタシのセーラー服のスカーフ辺りを見つめた。
「カギ、なんで付けてないの?」
「……カギ?財布に仕舞ってるけど」
アタシはアレを、財布のジッパーの中のお守り入れに入れていた。何か、イヤリングのような仕様があるのだろうか。
「新しい武器ってこと?」
「武器か……☆まぁそーカモ」
幸子はリュックの内ポケットからアタシの財布を取り出して、銀のカギをアタシに付けてくれた。
「ハッピーバースデー、ってコト。みんなから」
「へっ」
確かに……いろいろあり過ぎて、アタシの誕生日パーティーは流れてしまっていた。
でも、いいんだけど。
誕生日、クリスマス、バレンタイン、ひなまつり……その年のどこかのタイミングで家族が生まれてきたことを心から感謝する。
それがあまり裕福で無かった星ヶ咲家のルールだけど、忘れた頃にっていうのがドキドキ、返って嬉しかったのだ。




