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「私、体術の授業で着替えあるから」
最初に、ロボ菜ちゃんが席を立った。
マックスは頷いた気もするし、目を伏せて二杯目のコーヒーを嗜んでいる。
「ドーナツありがと」
ロボ菜ちゃんの手が、幸子に触れて、幸子もその手に触れた気がしたけど、マックスが来てから、一言も発していない。
ロボ菜ちゃんのラテグラスは空になっていたけれど。
アフターヌーンの屋上テラスは、ポストカードに切り抜いたみたいにそれぞれ絵になっているのが……なんだか寂しい気がした。
幸子が、何も言わずにただ風にツインテールを任せているのが、ただ、遠い綺麗な景色に思える。
「アタシも次の授業、行くね」
「うん」
マックスが返事をした。
幸子は次の時間は空き時間の筈だ。マックスの予定は分からないけれど。
「ドーナツありがとね」
幸子はこっちを見る代わりに、アタシの手のひらに、何かを握らせた。
(鎖……?)
……違う、カギだ。
銀色の、小さなカギのネックレス。
「……くれるの?」
幸子がカフェラテに手を伸ばしかける……
「あ……い、行くね!アタシっごちそーさま!!」
後ろを振り返えらずに走り……エレベーターホールでメッセージを打つ。
——幸子、今日一緒に帰ろ!
——カモミールドーナツおいしかった!!
アタシに出来ることは、無いのかもしれないけれど。




