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風が、少しだけ涼しい気がした。
Hylubの裏門へと続く裏路地に植えられた楡の木の緑が、木漏れ日を創り出してゆらゆらと揺れている。
「宗ちゃん、融合稼働効果って何?」
いくつかの日用品店が、店先にコンテナや台車を並べ、開店の準備を始めていた。
「搭乗者同士の能力を合わせた時のエネルギー出力値の高さって感じかな。おはよ、みっちゃん」
「あ、おはよ」
宗ちゃんは、昨夜の搭乗が無かったかのようにHylubの制服をピシッと着て、通学路をてくてくと歩いていたものだから、アタシは挨拶もよそに本題を聞いてしまった。
「シュウジとみっちゃんが一番高いんだよ。全搭乗者の中でね」
「そうなんだ……」
だからか……確かに、誰と乗るより、シュウジとだと全てがスムーズに思う。
「まぁみっちゃんの為ってだけじゃないと思うよ。小松さんとシュウジ、なにやらハイドロレイダーの改良の件でこそこそしてるみたいだし」
「そうなの!?」
僕が決めたから、と弟は言っていた。きっと、進む為に、たくさんの折り合いをつけて。
「昨日、遅かったの?」
「や、普通だよ。ほら、純之助も普通に来てるでしょ」
「ほんとだ。上手くいったんだね。……なんか合体とかできるらしいね」
宗ちゃんは、なんだか久しぶりに楽しげに、目を泳がせた。




