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朝一番、薄曇りを照らすオレンジの光が美しかった。
いってらっしゃい!という元気な母の声が、四畳半から聞こえてくる。
アタシは顔を洗って、鏡に映った顔を見つめてぱち、と頬を叩いた。
カラカラとガラスサッシが開いて、玄関先で弟とかち合う。
まだ、夜が明けきっていない。
こんな時間に朝練に行っていたのか……
「姉、融合稼働効果って知ってる?」
「ひりわへんへお」
歯磨きの泡が育ってきてうまく喋れないけど、弟には伝わっているようだ。
「ジュン君さ、最初僕に譲ってくれてたんだよ、席。なんか気、遣ってるでしょ」
そーだけど。
アタシは返事の代わりに歯ブラシをガシャガシャと動かした。
「ちゃんと、僕が決めたから、宜しくね!」
アタシは洗面台で口を濯いだ。
「よろしく」
靴を履くシュウジに声をかける。
「おう!」
弟は、落ち込んでいるようには見えなかったけれど。
「冷蔵庫のひやおにぎり、炒飯にしといたよ!シャッキシャキのレタス、たっぷりの」
「食べるよ。いってらっせ」
「ウィ」
朝からレタスたっぷりの炒飯なんて贅沢な気持ちになる。
弟は真鍮風の丸ノブを回して、元気にドアの向こうに消えた。
まだ、ふわふわと湯気の立つ炒飯はなんとも言えない美味しい匂いを放っていた。
◯◯◯
——新型レイダー、ダンデライオンです。
???……部活に行った筈の弟から、メッセージが入る。
——僕が付けましたv
それが、弟なりの折り合いということってわけか……
——いいんじゃない?
——ウィ。それにダンデライオンは変形することができません!プププッ
……いややっぱ、折り合いつけてなくないか……
——でも、合体・分離をすることが出来るそうです…
うん、全然折り合いついてないよね……
——宗ちゃんも幸子も乗り換えてるし、状況によって、でいいんでないか?
——姉、天才か!
——ありがとう!いってきます!
好きって思ったことは、やってみたほうがいいって思う。
——おー、いってらっせv




