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「うわっ」
目の前が炎で一杯になり、アタシはキッチンのフェイクタイルの上に尻餅をついた。
いつだったかに母と一緒に選んだタイル柄のふわふわシールシートだったから、痛くは無かった。
「大丈夫!?実華!!!」
弟と楓が駆けてくる。
……いや、アンタが大丈夫なの?
「アタシは大丈夫だけど……」
「良かったよ」
そう言って、スカーレットブレイズのホログラム映像を纏う弟は、アタシが思っているような気持ちじゃないのかもしれない。
「ご飯、出来たよ。っていうかこんな大映量で見なくても……」
「えー、カッコよくない??」
そう言いながらも弟はリモコンをポチッとして、ホログラムモードからブラウン管モードに切り替えた。
部屋を埋め尽くしていた炎がブラウン管風TVに仕舞われていく。
わざわざ、思い知る必要があるのだろうか……
「箸、用意しといて」
「うん」
アタシは弟用のデカめの呑水におでんを盛り付け、おにぎり皿に焼きたての焼きおにぎりを並べた。
「別の番組観ない?」
新型レイダーのダイジェストニュースを見つめ続ける弟に、そう声をかける。
「今ほら、あのダーツのやつやってるんじゃないかな」
「えー、迷う。あれめっちゃ好きだけど。ていうかおでんと焼きおにぎりのコラボ、めっちゃウマっっ」
弟は、画面から目を逸らしはしないようだった。
◯◯◯
ピコン、とホログラムモバイルが振動した。
……ダーツのやつは見逃しPast-airで観ればいいんだけどさ。
アタシは仕方なく(?)ぼんやり新型レイダーについてのニュース映像を見ながら、麦茶と焼きおにぎりのコラボを楽しんでいた。
冷たい、熱い、香ばしい&香ばしい。サラサラ、カリふわ。
もう一個焼こうカナ。
席を立つ前に、一応モバイルを見とくか。と、メッセージメニューを立ち上げる。
(……マックスだ)
終わってから送ってきたってことだろうか。
対ディストレスに特化したレイダーは、同じ構造のレイダーを著しく排することは難しいらしい。仮にコピーされても、レイダーの弱点にはなり得ないのだ。それ故、HyLAはむしろ、その製造や技術、マテリアルについて詳しく公開することで新しい技術者や協力者を募り、可及的速やかな進化を遂げている。
それ故、新型レイダーについて、早くもサイエンスチャンネルが特集を組み、今夜の搭乗について分析を行なっているけれど、搭乗者については、秘匿されていた。
リイヤはともかく、表には立ちたくない宗ちゃん、とにかく目立ちたくないジュン、そして、マックス……
プライバシー保護法が確立されている現代で、搭乗者の情報を追訴する存在は無い。だから安心ではあるけれど……
「ん!?」
「どうしました?姉」
「いや別に……」
——嫌いって言ってすみませんでした。
……なんか搭乗の感想かと思ったらどゆこと???ってあれか。鳥取までシュウジを付き合わせて、……嫌いとかさ。
正直、気にはなっていた。
——アタシのこと嫌いな人いると思ってるけど
それは思ってる。……でも、アタシたちの結論、それは皆んな同じなんじゃないかと気づいていた。
——仲間とは思ってほしいカモ。あと、シュウジのことは嫌わないでほしい。たぶん傷つく。
——嫌いじゃないです。うらやましいって感じかな。ごめんねお姉ちゃん。
いやお姉ちゃんぶったわけじゃないのに!……と思うけどアタシはお姉ちゃんなのか!?
——ten four
——I'm sorry...
ポン、ポン、ポンッとごめんのイラストマークが送られてくる。
「大丈夫?実華」
「……大丈夫!」
マックスの世界からの評価がこれからどうなるのかは、分からないけれど……誰だって、世界にどう思われているかなんて、分からないのだから。
「お茶淹れてくる!」
「ウィ」
アタシたちは見続ける。
夜空の星を見上げるように




