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「座ってていいよ、焼きおにぎりも食べる?」
洗面所から出て来た弟に声をかける。
「……何?どうしたの?僕がやろうか?」
「何で?いいよ、別に。アタシも食べるからついでだから訊いてるだけ。何個?」
「5個でお願いします!」
「5個!?」
「多い?やっぱり僕がやろうか?」
「や、いいけど別に……麦茶でも飲んだら?アタシのも注いどいて」
「了解です」
冷蔵庫の冷気がひんやりして、弟がガラスサッシの向こうに消えた。
……米はある。毎日アタシが、大量に炊いてるから。
「三個ずつ焼けばいっか……アタシは一個でいいし」
や、でも幸子も食べるっていいそうだから、おにぎりは……12個くらい握っておこう。
せっせ、せっせと三角にしては醤油に浸し、ごま油を熱したフライパンに三つ並べた。
じゅわわっと醤油の香りがして、温まったおでんの出汁の匂いが広がる中で、残りの9個も三角にしていく。
フライパンのおにぎりをフライ返しでひっくり返すと、丁度良い焼き色が付いていた。
9個のうち3個を、第二陣用にお皿に取り分け、6個はタッパーに入れて冷蔵庫に仕舞った。
焼きおにぎりって冷やご飯から作る方がおいしい気がするのはアタシだけだろうか。
そうこうしている内におにぎりが焼けた。
あっ先に箸か。
うちの狭いキッチンには食器棚は置けないので、食器類は四畳半に収納してある。
「シュウジ、出来たから箸を……」
ガラスサッシを開けると、ホログラムモードとなったTVから、陽だまり色のレイダーが浮かび上がっていた。




