637
——19時。
気温は蒸し暑かった。
季節外れのおでんをあっためて食べて、氷をたっぷり入れたグラスに麦茶を注いだら、パキ、……と氷が鳴った。
ピコン、という、ニュース速報。
アタシはおでんを装ったとんすいとお箸を流しに浸けて、からしを冷蔵庫に仕舞った。
「なんだろ……」
キッチンのガラスサッシを閉めたら、多分また、クーラーが効いてくるだろう。
グラスの水滴が手首に滑って、楓がアタシを見上げていた。
「新型レイダー、ディストレスを迎撃……?……え……」
それは、今まで見たことないような……アタシでも分かる、誰もがその強さに憧れるレイダーだった。
グラスの水滴が、畳に滴る。
「あっごめん……」
ちゃぶ台に麦茶を置いて、座布団の上で楓に跳ねた水滴を拭う。
意に介さないように、楓も画面を見つめている気がした。
マルチトレースシステム……——そのレイダーは、これまでの全てのレイダーの業を繰り出した。
「綺麗……」
不謹慎にも、そんな言葉が口をつく。
「薄明の光が白炎となる」
虹と、鈍色の水素針が輝く。
「みんなの力を、光に変えて」
どれだけの、想いだったろうか。
「降り注げ……」
アタシには、分からないけれど……
「こんなに……綺麗なんだ……」
楓の温もりが、手を温めていた。
——部屋がひんやりとして来ていた。
どこかに根付いた小さな蕾は画面の中で、空から降る光の中に溶けた。




