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「疲れたなら、帰るけど」
「まだ大丈夫。……ほっしーが来た意味を考えてる」
アタシが来た意味?……そんなの、あるのかわからない。
「サブローさんもさ、昨日来たんだよね。これからの方法を、模索してるって」
HyLAがマックスの処遇をどうするのか、分からなかった。IOP消失以降、分からないことだらけだった。
……違う。人類はわからないことだらけだ。進歩と引き換えに、生まれた歪みを見ないふりしてる。
「あのさ……」
声が震える。
マックスは穏やかな目でアタシを見上げた。仲間として、共に闘った日の時のように。
アタシはアタシが訊こうとしてたことを口にする。
「全部、自分の意思だったの?」
「そうじゃない。って言ったら、どうするの?」
AIdは人が作り、進化し続けてきた。
「逃げて。って頼んだら、俺を消してくれる?」
さっきまでの空気が凍りついていく。
「ごめん……応えられない。けど、たとえばシュウジなら、逃げるか逃げないかは自分で決めたいかもとか……言うと思う。」
無理!って、幸子なら言ってあげられるのかもしれない。他のみんななら、もっと上手く応えてあげられるのかもしれない。
嫌だから、足掻くのだ、みんな……けど……
「助けてほしいんだよ……誰かに……」
それが是か否か——分からなくても……
「マック……」
「大丈夫だ。……ごめん。……ちょっと寝ようかな」
「分かった」
マックスが毛布に潜ったのを確認して、アタシは声をかけた。
「コーラ、冷蔵庫に入れとく」
「……うん。お茶も出さずにごめん」
「うん」
「ほっしー」
黄色に揺れる花に、夕陽が落ちる。
「確かに、シュウジなら、言うかもね」
アタシも、応えられる自分になりたいと思った。




