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窓の外は、暑いのだろうか、それとも涼しい風が少しは入って来るのだろうか。
部屋の空気はしんと冷えて、モノトーンの景色はどこか気持ちを冷静にさせる。
ばら撒かれた五線譜が空調の風に揺れる。
揃えてあげてもいいのかもしれないし、触れてはいけないような気もした。
「あのさ、来たんだよね。メッセージ」
さっきなんか……気になること言われた気もするけど、今から言うことが本題な気がした。多分、マックスにとって。
「……誰から?」
黒いホログラムモバイル。画面のスクリーンショット。
——ばーか!!!!!
と、いやにキラキラしたホログラムメッセージがひんやりした部屋に浮かび上がる。
「……なんか、良かったじゃん」
「そうね」
マックスが幸子にどう返事したのかは分からない。
それでも、アタシたちは仲間なんだと思った。キラキラの向こうに、幸子のふん!とした笑顔が見えた気がしたから。
「え、そういやアタシももやしっ子って言われたことある……」
「それはヒドイ」
「まぁそん時はもやしだったからさ。それに……」
もしかしてアタシが先に傷つけたのかもしれない。幸子のことも、マックスのことも。
「ばかかもね。……俺」
「本心じゃないと思うよ」
傷つけたかったわけじゃない。
……なのに。
——答え合わせのない世界で。
◯◯◯
「そんなこと言った!?」
ある夏が終わる日、牛乳アイスバーがつやつやと煌めいていた。
「言った。溶けるよ?アイス……」
「わっやば!☆言ったかなぁ……でも私、もやし凄い大好きだけど」
「どういう意味よ……」
スイカのアイスバーのさっぱりとした甘味と、暑い日差しが口の中で混ざって熱い体に溶けていく。あ、チョコおいし。
「幸子暑くないの?日陰いこ」
「そうね」
暑さに耐えきれず、アイス、アイス、となってしまったアタシたちは、日陰を探した。
まだまだ、本当暑い。
「ほら、あのラーメンにもやしがいっぱい乗ったやつあるじゃん☆定期的に食べたくなるのよね」
「……食べたことナイ」
「ウッソ☆美味しいよ!今度いこ☆☆☆」
「いいけど」
日傘を忘れてしまった。だけどいい天気だった。
「楽しみだね☆涼しくなるといろいろ美味しいし」
「熱い日に食べるラーメンも美味しいけどね」
「ま・ね☆あ〜おいしかった☆☆☆」
暑さと、ほんの少しのため息と、赤い甘みを噛み締める。
今夜はよく眠れるかもしれない。
そう思った。




