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エレベーターが停まった。
ガチャン、と音が鳴って、金属の蛇腹の扉をスライドすると、黒い絨毯と、大きな窓。
意外だった。
世界的に有名なアーティストの私室。
外国のホテルのインペリアルスイートのような、居住を想像していたのに、ミシェルさんやエミリーさんのいる6階と、色の雰囲気以外なんら変わらない作りだった。
黒い絨毯に真っ白な壁。
白いドア枠に黒いドアが嵌っている。
「廊下の奥から三つ目の扉がマックスの部屋よ」
ドア枠にホログラムの格子が嵌められている。
「窓にも近づかないで。空間格子が施されているの」
「わかりました」
アタシは息を吸って、七色の格子の前に立つ。
コーラ瓶が汗をかいて、水滴が指を伝った。
「やめてもいいのよ」
マーガレットさんは、いつかと同じことを言った。
「ロックを外してください」
アタシは、マックスにとって、いや、やっぱり他の誰にとっても、シュウジの姉でしかないのかもしれない。
何が出来るのかもわからない。
でも仲間に頼まれたからというだけじゃない。アタシ自身が決めて、今ここに来た。
「マックスには説明した上で、今は全てを録音、録画しているの。危険を感じたら合図して頂戴」
「わかりました」
マーガレットさんの操作で、部屋と廊下を隔てる格子が泡沫みたいに消えた。




