614
「ポメラニアンだ……」
リイヤ君が隣にしゃがんで、グーにした手を差し出した。
「ちょっ!シュウジ!リイヤ!!!噛まれるよ!!!」
ぼろぼろのモップみたいになってしまっている小さい犬は、すごく哀しい目に遭ったのかもしれない。
「リイヤ君、犬詳しいよね、……どうすれば安心してくれるのかな……」
「いや、俺チワワしか飼ったこと無いんだよね……チワワはチワワという生き物なんさ」
そう言いながらも、リイヤ君は黒いポメラニアンと距離を縮めつつあった。
「ごめんごめん、ごめんて。ほーら、大丈夫だって」
この子は、何かを怖がっているように見えた。
憎悪……恐怖……あらゆる負の感情をぶつけるように唸り、光の見えない真っ黒な瞳で僕たちを見つめている。
「ライさん、どうしますかね……これで急ぐ必要はなくなった」
「待って、サブローさん」
枷が外れて、心まで解放されたように静かだった。
「この子って、楓と同じような感じ……ですか?……だったら……」
「まぁ、調査というか……検査はするべきだね」
「うわっ抱っこできたで!!!」
あ、さすが、リイヤ君わんこ抱っこうまい。
「つ、連れてくっていうの!?」
「姉……はさ、もし一旦帰ったとして、後日また来てマックス君を助けるとか出来ると思う?」
僕の勘は結構外れることがある。
「……思わない。勘でしかないけど、今日なら連れ戻せる気がする」
ライさんが、リイヤ君に何かを放り投げた。
「ハーネスを付けろ、キュロス。俺とお前、それからその犬っころはトリオシステムで進む。どのみち退路はワープによる離脱しかねぇ。進めるだけ進む」




