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「あの神殿の中にいる。マックスも、ディストレスも」
姉のイヤリングが通信兼探査ドローンのライトを浴びてキラキラ光っていた。
「みんな、改めて確認だ。とにかく一番に身の安全を優先してほしい。HyLA本部、ライさん、俺、それから——ミカ君、危険を感知したら、離脱の言葉を発してほしい」
「へっ、ア、アタシが!?」
「ライさんの動体視力と勘もなかなか凄いんだけどね……イヤリングの性能に期待してみよう。誰かしらから離脱の声が上がった場合、それと自己判断で危機を感じた時は、速やかに離脱だ」
「「「わかりました」」」
「それから……」
「三島さん、計画の途中ですみません」
「どうした?宗一郎君」
「あれは……神殿はそれ自体がディストレスです」
「建物が?」
「ハイ。無機物がディストレス化するケースはありませんでしたけど、あれは無機物というより、有機物が神殿の形態を模倣しているというか……それからシュウジ、両腕を上げてくれ」
「こう?うわっ!!!」
ドローンから、赤い光線が迸る!!!
ぼと、と音を立てて、重い枷が地面に落ちた。
「筋組織を弛緩させ分解する光線だ」
「まだ生きてる!!!」
「待って!姉!!!」
「それってディストレスなんじゃないの!?」
「待って!!!待って実華!!!」
既視感に包まれる——
「待って姉……これ……」
「危ないよシュウジ!!!薄明の光が——」
姉が発光し始める!!!
「待って!!!大丈夫だよ!!!!」
「……どういう……こと……」
「姉……たぶんこれ……この子——」
獰猛な黒い息が、黒い塊から発せられていた。
ゆっくりとしゃがんで、グーにした手を差し出す。
「この子、犬だと思うよ」




