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「人間ならね」
アタシは心に溜まった何かが流れ出すように、息を吐いた。
サブローの、治る。という言葉は、いやに確信に満ちている感じがして、言葉が詰まる。
「ミカ君?」
「……あ、……いや、大丈夫です」
「人間は回復する。必ずね。……でもこの扁桃体の暴走がAIdの中でも起こってしまうことがわかった。過去に、耐え難いストレスに晒された個体の暴走……それがディストレスの正体だ」
「ってコトはつまり……」
「そう、ディストレスとAIdは元々は同じというわけだ」
「……そんな、それじゃあ——」
ディストレスにも心がある。
奇しくも、宗ちゃんのお父さんがかつてAIdに心があることを証明したのだ。
人類が創り出した人工の生命は、長い年月をかけて進化を遂げ、心を手にしていた。
AIdと暮らす人々にとっては僥倖でもあり、AIdの生存倫理についてもより細かに整えられた。
人類は残された最後の生命ではなくなったのだ。
「……それならシュウジはきっともう、ディストレスと戦えません」
「このことを言うつもりはないよ。聞かれない限りね。ディストレスはディストレス、AIdはAIdだ」
「騙すってコト、ですか」
「すべてを伝えることだけが信頼だと僕は思わない。続ける意思がある限りね」




