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「牧場でさァ、マックス君とアーチェリーやったんだよね。マックス君上手くて」
姉はパラパラと焚き火に砂利を投げ入れている。
ぱちぱちと光が弾けては爆ぜ、消えては生まれた。
「花火ってさ、こういう綺麗な結晶みたいな物質を丸めてさ、炎色反応っていう化学反応を起こさせて作るんだよ」
「へぇ。学校で勉強したの?」
「まぁね」
「楽しそ」
「まぁ、楽しいのかもね」
花火を見つめる時、そこには闇の中にあるワクワクした気持ちと、大事な人の声と、少しの切なさが在った。
余韻を憂うように、小さくなっていく焚き火を見つめながら声を紡ぐ。
「ハマって、帰って来てからもさ、ゲーセンで弓引いたりしてさ、ジュン君も上手くてさ」
「アンタたち、仲がいいように見えたよ」
「そう?」
ただ一緒にいただけだったのかもしれない。
そこには在ったのは、偶然だけだったのかもしれない。
「だからアタシは、今理解らないのが苦しい……のかも」
「ありがと」
「何が?」
「わかんないけど……」
光が弾ける。……瞬いては、消える。
「わー!シュウジとほっしー、旨そうなやつ食ってる!!」
「食べれば?作ってるのシュウジだけど」
「我も呼ばれよう」
こんな夜に、そこには確かに何かが在った気がしてならない。
「……仲直りしなさいよね、アンタたち」
実華の声が、線香花火の火花の向こうに、聞こえた気がした。




