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目まぐるしく流れる景色はどこか遠い世界の出来事のようで、僕はポテチをぱりぱりとほうばった。
「わ!おいしっ!このポテチ!!!」
珍しく(初めてかも?)コックピット内でリラックスモードの姉は、無理をしてるのかもしれないと思った。
「不謹慎とか言わないわけ?」
「まぁ、緊迫してても上手くいかなそうだしね」
片手運転でリバティドルフィンを走らせるジュン君と姉は、深夜のテレビゲームタイムみたいにリラックスしている。
「家みたいだね」
「家みたいなモノだろう」
ジュン君はあくびすらしていて、気分が落ち着いてくる。
——マックス君は、自分をAIdだと言った。
(苦しいよね)
AIdは死ぬことが無い。AIdは死ぬことが出来ない。
でも哺乳類型AIdは肺呼吸だ。
痛み、苦しみを感じる筈だろう。——きっと胸の痛みも。
マックス君の行動で、少なくともFirstのみんなは傷ついた。Eighthの人たちも。
傷ついている人がいる時点で、マックス君は違っているように思うけれど……嫌いにはなれない自分がいる。
(遊びたいなら、遊ぼうって言ってくれていたら……そしたら……)
僕が幸いと願うことは、僕の中の幸いでしかないのかもしれないけれど。
——信じたい気持ちが消えない。
「罠かもしれんがな」
ジュン君がぽつりとそう言った。
「……そうだね」
それでも。
「吸い込まれる!!!」
「来るなら来いだ!」
その先に、落胆しかなくても。




