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「YEHって知ってるかな」
「Yawning Energic Hormone. AIdの活動に伴う運動エネルギーに作用する人工物質のことです」
「そう、ヒトで言うとアドレナリンなどの化学物質のことだ。詳しいね」
「……楓のことを調べていて、本で読みました」
「なるほど。じゃあ知っているかもしれないけど、これらの物質は体内で多すぎても、少なすぎてもいけない」
「知ってます。それは……」
宗ちゃんが体を壊してしまって、沢山、調べた。
待つこと、しか出来なかった、けれど。
「それも、本で読みました」
「……そうか。……ミカ君ならもしかして知っているかもしれないけれど、動物は脳内の扁桃体で、恐怖、怒り、不安を判断している。危険をうまく避けていくためにね。しかし、過去に何か、過剰なストレスを感じた場合、その後に扁桃体が正常に機能しなくなってしまう場合がある。外部からの少しの刺激で、恐怖や怒りや不安が、増幅されてしまうんだ。その結果、体内でストレス物質が過剰に発生してしまい、身体能力は向上するが、心が壊れてしまうことがあるんだ」
……宗ちゃんもそうだったのかもしれない。
「それは治るんですか?」
これは、本旨とは関係がない。
それはわかっていたけど、アタシは訊かずにはいられなかった。
「うん。治るよ」




