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潮の香りが、夏の風に混ざる。
——生温い夜。
マックス君の目的地が、なぜかもう、すぐ近いような気がした。
「えっ……海に入るの……?」
砂丘を滑るように降りた先に夜の海。
先刻まで凪いでいた海には、白波が押し寄せている。
「生存膜があるだろ?HyLAジャケットに」
白い、HyLAのジャケットの胸に、赤い八芒星を輝かせて、マックス君は笑った。
「便利だよね、この服」
どんな思いで、みんながこの制服を着ていると思っているんだろう……
凪いでいた気持ちが、波の音と共に畝り始める。
「……拘束を解いてくれないと。これ嵌められてると、ライズブレスが展開出来ないんだよね」
両腕に嵌められた黒い枷が、冷たい未来を予感させる。
……迷っているのか。
マックス君は空の月を見上げた。
「残念だな……ここまでみたいだ」
「どういうこと?」
振り返って……————空が、深い闇に飲まれている光景に……——安堵する。
先刻までの美しい星々も、遠くの灯りも……何もかもが闇に吸い込まれたみたいに……
「宗ちゃん!!!」
バッ!!!——と砂浜が明るくなり、目を覆う。
でも……でもあれは!!!
慣れてきた瞳の中に、数多の円盤が見えた。
サーチライトの光を一斉に浴びたマックス君は……
——笑っていた。




