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「マックス君ってさ、もしかして AIdなの?」
月が綺麗だった。
砂漠化を季節でコントロールしているエリア鳥取は栄えていて、遠くに古代アラビアの王宮を思わせる、いくつものアーティスティックな宮殿めいた建物と、楽しそうなロープウェイが見える。
砂の斜面を、拘束されながら歩くのは、映画の主人公になったみたいで……風が優しくて、満月が夢みたいに綺麗だった。
「これ、外してよ」
「ダメだよ。シュウジのほうがきっと筋力があるからね」
「そんなことないよ。マックス君ってドラムやるじゃん?ドラマーの人ってインナーマッスル凄いでしょ」
ラクダの群れが見えた。
何組かのアベックみたいな人たちも。
「その拘束具、すごいよね、シュウジ。周りの人から存在を認識されなくなる。周りからみたら、今僕は孤独だ」
「逃げないよ。行きたいところがあるんでしょ」
「僕を許さないんじゃなかったの?シュウジ」
「小学生男子の心なんて、すぐ変わるって。おぉ!」
視界が開けた先に、星空と海。
「広いよね。世界は」
潮の香りを、急に風が運ぶ。
「どうして、HyLAから消えたの」
「求められていないからだ」
「世界に?」
マックス君がそう思ってる気がした。少なくとも僕は、仲間じゃなかったのかよと悲しかったけれど。
月を、目指して歩く。
温い砂の上を。
波音が緩やかに響いていた。




