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「ちょっと待って!!!返って来るよほら!!!!!」
幸子の叫び声に我に返る。
「どこにいるの?トカっ、大丈夫!?……トカっ返事ないけど!……ポテサラシュウジ君の分も食べちゃうよって入れたらほらっ」
——少し残しておいてください。
「!!!!!!」
——シュウジなにやってんの!?いまどこ!?
既読になる。
通話は……ワンコールで切れてしまった……
自分の鼓動が痛いくらいに鳴っているのが分かる。
「……っ」
震える指で、モバイルに文字を打つ。
「みっちゃん?」
——シュウジ、あのさ、アンタの好きなキャラクターってなんだっけ?
——タツタマスクだぽん
……これは暗号だ。アタシたち姉弟の。
「な……に……?タツタマスクって……ちょっミカ!?」
足音にちゃぶ台が揺れた。息がうまくできない……ライティングデスクの引き出しを開けて中を引っ搔き回す。
サインペンの蓋を取る時に、手に黒い線が引かれた。
「何っ!?ミカどうしたの!?」
ポテトサラダの横にメモ帳を置いて、アタシは必死で息を整えた。
「ツ……マス……ク……」
サインペンが掠れる。
「ツ……スクマ……」
「みっちゃん……」
宗ちゃんの顔を見上げる。
「シュウジは……」
「アナグラム……」
サブローの手が止まっていた。
「シュウジはマックスといる」
〇〇〇
「姉姉~」
「何よ」
夏の午後、プールから帰宅したアタシは座布団をクッションにして、シュウジの古代の漫画雑誌を楽しんでいた。
読め読め言われると気が進まないけれど、ちょっと読み始めたらどうにも気になって、シュウジが部活の日の発売日には、もうアタシが買いに行ってやろうかと思ってしまっていなくもない。
「もしさ……姉が悪の組織につかまったとしたらさ」
「……え?————え?」
「暗号を決めておこうと思うんですよね」
「え待って。掴まりたくないし、そんな組織あると思いたくないんだけど」
「いやないよ?この平和な世界にそんな組織あったら僕も嫌だけどさ。目には目を。念には念をって言うじゃない」
ははぁ……さてはスパイアニメか何か見たんだな……。でもアタシはやりませんけどね。
「僕が、姉が好きなキャラクターってなんだっけって聞くからさ、そしたら姉は、情報のアナグラムの中に「た」を混ぜて、たぬきぶってもらえれば大丈夫だからさ」
「たぬきぶるって何!?」
「うどんぶってもらっても大丈夫だよ。でもその場合、「た」じゃなくて、「さ」抜きね。キャラクターの名前として伝えて貰えば、ばれる可能性少なそうじゃない?」
「いやその前にうどんぶるって何さ……」
「まぁ実際はそんな日来ないってわかってるけどさ」




