588.5 手記28
脹脛の辺りが、痛いように思う。
六畳の和室には文机だけがあって、向こうの四畳半には、いつだったか……シュウジが置いていった、古代のパルプ古紙の漫画雑誌が積まれている。
脹脛に、冷たい畳のい草の感触。少し足をずらすと、木片か、い草の屑かわからないけど、棘が刺さったようにちくりとした。
起き上がれない日が、もうずっと、何日も続いている。
AId研究の第一人者だった父の、望まぬ遺志が、寝転がる俺を生かし続ける。
部屋自体がAIdとして意思があるかのように、望まぬ生存要素を酸素と共に供給し続け、排出されるべき不要物質を二酸化炭素と共に吸収濾過していく。
室温・湿度は、人体にとって快適な数値に常時保たれ、羨ましいと言っていたシュウジの部屋に、このメカニズムを移設する前にIOP消失が起こった。
「だーッッッエキマニが折れたッ!!!」
白いパーカーのサングラス男は、古いデニムで胡座をかいて、動かない俺の横でレイダー二号機のシリコンパーツ模型を組み立てている。
「どうせなら作り直したらどうですか。そのエキゾーストマニホールドの構造だと、ジェネレーター……水素高炉、でしたっけ……のスペックを6割も活かせない」
「……あぁ……そっか、そうかもね……」
父の受け売りのような知識を、白パーカーはバカにせずメモをする。
「アンタ、不器用すぎる」
何度失敗したことだろう。
「そうなんだよね。拓海……一緒にブレイズを作ったやつなんだけどさァ、そいつにもそう言われててさ。でも楽しいよ、組み立てるのはさ。宗一郎君もやるかい?」
俺には出来るかもしれないという気持ちも過ぎる。
「無理です」
「……俺はそうは思わないけどさ。出来たッ」
今にも壊れそうなレイダー二号機の中枢部模型が畳の上で……
「こんなボロがブレイズにも入ってるんですか」
「いいや、模型は難しいところは拓海が作ったし、実寸を作ったのはエリアBの人たちだからね」
……——それでも、幼心の情熱みたいに、それは熱くて、うっすら輝いて見えた。




