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「フランスよ」
どうしても小柄なミシェルさんを見下ろす形になってしまって、前髪の下の表情が見えない。
アタシは淹れてもらった紅茶で心を落ち着かせてから、あることを思い出した。
「そ、そうだ!スコーン持って来たんです。食べませんか!?」
バスケットからレースの紙ナプキンと、スコーンの箱を出す。
「いただくわ」
ミシェルさんが戸棚からお皿を出している間に、アタシはレモンカードの小瓶もテーブルに置いた。
「これ……タワーブリッジの近くのお店のスコーンね」
睡蓮の形のお皿にスコーンを取り分けながら、ミシェルさんはそう言った。
「綺麗なお皿ですね。そうなんです、……幸子から教えてもらって」
「ありがとう。母から譲り受けたお皿なの」
ミシェルさんは、美しい所作でスコーンをさく、と噛み、紅茶を口に含んだ。
「元々はエリカさんが教えてくれたのよ。1組の担任だから」
「そうだったんですか!……あの、これもつけてみてください!!」
アタシはレモンカードの小瓶を差し出した。
「スプーンを持ってくるわね」
「い、一度に言わなくてすみません……」
ミシェルさんはキッチンから銀のスプーンを持って来て、スコーンにレモンカードをつけた。
「おいしいわ」
「よかったです」
アタシはやっと、息ができるような気がした。




