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「やめてもいいのよ」
ふいに、マーガレットさんが言った。
アタシは振り返って、マーガレットさんを見上げる。
窓が軋んで、隙間風がスコーンの香りを立ち昇らせる。少し冷めてしまったかもしれない……でも、ここのスコーンは冷めてからもみっしりぎゅっとしていて、美味しいのだ。
歴史を帯びた古い木の壁の色が、気持ちを落ち着かせてくる。
「いえっ、やってみます」
アタシはスコーンが入ったバスケットをぎゅ、っと握った。
「何ができるか……まったくわかりませんけど」
正直な気持ちだった。
中2のアタシが、高校2年生の二人に何ができるのかわからなかった。
……嫌われてしまうかもしれないと思った。
帰ってほしいような態度を取られるかもしれないとも思った。
それでも、エリカさんやマーガレットさんが大切に思う仲間が、理由もなくあんなことをするとは思えなかった。
「いいのよ、それで」
マーガレットさんは、深い、スミレ色のドアの前で足を止めた。
「二人には、エリカから話してあるわ。……今日、貴女が来ること。メディカルチェックで異常はなかった。……けれど、なにかあったら呼んで頂戴」
マーガレットさんはアタシの左耳にシルバーチェーンのイヤーカフを付けた。
「先端のパールがボタンになってるの。押すと、エリカと私に直接繋がるわ」




