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ジャスミンの香りに包まれて、メゾンのエントランスホールに進むと、レトロな自動販売機と手動エレベーターの扉が見えた。
アンティークソファと、古びたコーヒーテーブル。
マーガレットさんは、くすんだグリーンの集合ポストのひとつを開け、中の手紙を取り出した。
「こっちよ」
古代の映画でしか見たことのない、金メッキの手動ドアをガチャガチャとスライドさせて、アタシたちはエレベーターに乗り込む。
扇形の階数表示盤の秒針みたいな矢印が、一階から少しずつ動いていく。
マーガレットさんは、手紙をジーンズのポケットに仕舞ったようだった。
「この階よ」
マーガレットさんが、押し心地の良さそうな開くボタンを押してくれたので、アタシは蛇腹の金メッキの扉をガチャガチャとスライドさせた。
モスグリーンのふかふかの絨毯に、スニーカーを乗せる。
古い木の壁には、いくつか小さな絵が掛けられていて、廊下の突き当たりの大きな窓からは、光が差していた。
ドアが6つくらい。
壁と同じ色の古い木の色のドアが4つと、ふたつの紫で塗られたドア。
「スミレ色のドアがミシェル。アザミ色がエイミーよ」
深い紫のミシェルさんのドアからは、神聖な気配が。赤紫蘇色のエイミーさんのドアからは、決意のような強さが漂っている気がした。




