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煉瓦造りのメゾンの庇は、ジャスミンで覆われていた。
オークブラウンの出窓には、黄色いバラが飾られているのが見えて、中の光と、太陽が反射してキラキラと輝いている。
ジャスミンの白くて可愛らしい素敵な香り……——。
アタシは幸子おすすめのお店で買ったスコーンと、ショーコに貰ったレモンカードのガラス瓶がバスケットに入っているか、もう一度だけ確かめて、メゾンを見上げて深呼吸した。
緑と、ロンドンの風に囲まれた6階建ての煉瓦のメゾン……——。
アタシたちの木造風アパートとと随分違うじゃないか……と思わなくもないけど、生まれた時から暮らしているアパートをアタシは気に入ってるし、なぜかみんなも気に入っている。
「私は二階、エリカは三階に住んでいるの」
私服のマーガレットさんは、グレンチェックのコットンシャツと同系色のスキニージーンズが褐色の肌に似合ってて素敵だ。
アタシはいつものグレーのカーディガンと、シルバーグレーの膝スカートにスニーカーで来てしまった。(カーディガンの中は猫柄のTシャツだけども!)
「ロンドンの人ってお洒落ですよね…」
「?」
アタシの呟きが聴こえなかったのか、マーガレットさんはメゾンを見上げた。
「二人は6階に住んでるわ」
◯◯◯
「縁だよねぇ、出会うも出会わないも」
「ん?」
紅茶に苺ジャムを入れながら、ショーコが満足そうにそう言った。
梅雨だ、一番、ジャムまつりに際し、ショーコはレモンカードという、黄色のカスタードにも似た良い香りのペーストとママレード、季節を先取りしたスイカジャムを用意してくれていた。
「この苺ジャム、おいしいねぇ」
アイスロシアンティーの氷をカラカラと混ぜながら、ショーコは満足げに呟く。
近所のパン屋さんのフランスパン一本食べ尽くすまで、お気に入りのジャムをつけて食べよう!というショーコが考えてくれた素敵な会に、アタシは子どもの時から大好きな紙カップに入った苺ジャムと、ピーナツバター。それと母が作ってくれたみかんジャムを持参し、ショーコのダイニングチェアでリラックスしていた。
「ジャムなんてさ、星の数ほどあるけれど、今我々を幸せにしてくれてる味は、出会うべくして出会ったし、これから出会うジャムもあるんだよ。ピーナツうま」
「ピーナツはジャムじゃないけどね。っていうかスイカジャムうまっ!!……えっ!!?このレモンカード?ってとろみ、やばっ!!!やばっうまっ!!!」
「桃ジャムも作ればよかったナー……おいしいよね」
「それもいいね。なんか幸せだね」
それはその味なのか、時間なのか、外に降る雨の音色のせいなのか、わからなかったけれど。
その次の年にはショーコは白桃ジャムを作り、アタシはあらびきのピーナツバターを探して持参した。
あの時のパン屋さんはなくなってしまったけれど、今年の梅雨の季節にはスコーンを持って、幸子も誘って、美味しい紅茶が飲めたらなって思ってる。
……——ある梅雨のふたり◯◯◯




