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「いーじゃん、ゆっくりすれば☆」
ロンドンから、わざわざマンハッタンの教室までやってくる幸子は、マンハッタンラボのこじんまりとした正門(目立たないように、裏路地にひっそりと建ててある)を出ると、くるりと可愛らしくターンした。
オレンジ色の街灯と、いくつかのカフェダイニングのほっこりと光るランプが灯り、灰色の小さな裏路地に温かい時間が始まっていく。
「いやさ……なんか始めたい気持ちになってて」
それが何かはわからないけれど、アタシの心は今、湧き上がっていた。
それが合っているのか、違っているのかまだわからない。けれど、アタシは歩き始めたかった。何かに向かって。
「何しようとしてたの?連休が終わってからでよければ、みんな付き合えるんじゃない?」
宗ちゃんはHylubに通いながら、順調にHyLAの仕事をこなしていた。GWも、当然のようにみっちりとシフトを入れていた。
「そうなんだけど……ミュージアムに行ってみたくて」
「そこの?」
マンハッタンには、大きな美しいミュージアムが在った。
「絵とか……わかんないけど、昇降口にポスターが貼ってあるじゃない。気になっててさ……」
「あー私も気になってた☆近いし、行ってみたいよね」
アタシの為すことにはヒントにならないかもしれない。それでも。
「なんでもしてみたいんだ」




