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過ぎ去りし思い出は悲しみじゃなくて、宝物なのかもしれない。
シュウジの言葉を聞いて、アタシはそう思った。
……いくつもの哀しみが、あったけれど。
少しずつ……少しずつ。
変わっていくのかもしれない。
哀しみも、心も。
母は、リュックからローズピンクのバラのプリザーブドフラワーを取り出した。
「ありがとう……」
そう呟いて、空に手向ける。
記憶野原の空に手向けた祈りは、透明な結晶となって大気に昇っていく。……そういう風に、弔うのだ。ここを作った誰かがそうしてくれた。
アタシはまだ、思い出の全てを幸せな気持ちに塗り替えることは出来ない。
それでも、変わっていくのだ。哀しみは少しずつ。
「姉、これを一つずつ、手向けてみようよ」
弟から渡された記憶饅頭は、手のひらで少し光って、美味しそうだった。
「いいよ、やろう」
この味、きっと好きな筈……。
空に手向けた祈りは、きらきらと結晶になって空に昇っていく。
二つの記憶星が、流れ星みたいに草原に流れた。
「受取ってくれたかもね」
弟が空を仰ぐ。
「そうかもね」
腕の中で穏やかに呼吸をしている楓も、追うように空を仰いだ。
宗ちゃんは来なかったけれど、癒えない哀しみなんてない。——そう思えるような、青い、青い空だった。




