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「こんなに綺麗な場所だったんだ……」
弟はたまご色のレジャーシートの上で寝転がり、風の音を聴いている。
今居る場所の美しさなんて、前は分からなかった。
ただ必死で、何かに足を取られたように前に進めなくて……。
母の後ろを必死について歩いた。
「姉、コーヒー飲む?」
「いい。アンタのコーヒーは食後に飲みたい。アタシもお茶持ってきたよ」
最近気に入っている小豆茶。
水筒に三人分入れてきた。
「じゃ、呼ばれよう」
差し出された水筒のカップに注いでやる。
「母も飲みたい」
母のマグカップにも注いでやる。猫の絵が描いてあるプラのマグカップは、いつだったかの母の誕生日にあげたやつだ。
コーヒーが好きな母が、職場でも飲めるように、フタ付きのお洒落なやつを弟と選んで、プレゼントしたのだ。
「ほぅ、おいしいね」
弟は小豆茶を気に入ったらしい。
「ほっこりするね」
母は長く息を吐いてから、リュックからでかいタッパーを取り出した。
「……何個つくったの?」
「いっぱい食べるやん、アナタたち」
「食べるけど……」
二斤分はありそうなハムサンドを、シュウジとアタシはぺろりと平らげてしまった。レタスがシャキシャキして、小川の流れと一緒に、耳にも心地よかった。
「はい」
タイミングよく、カフェラテの香りがふんわりと広がった。




