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助けられた迷子のようだったあの日を思い出す。
どこに向かえばいいのか悲しくて、その悲しさをどう表現すればいいのかもわからなかったあの日。
あの時を思い出すと、今、明るい新緑に囲まれたこの道は、別の公園のようにも見える。
「今日は、サンドイッチを作ってきました」
あの日は、もう日も落ちる時間だった。
今日、太陽の下で輝く母の笑顔は、楽しいGWの始まりを予感させた。
……とは言っても、この4月の週末の今日を除いて弟は部活だし、母も仕事があるみたいだったから、家族で出かけられるのは今日だけになるだろう。
楓の碧のハーネスが、くいっとアタシを優しくひっぱる。
気持ちの良い風が吹いて、弟も嬉しそうに見える。
「あの辺りで食べようよ」
緑の桜並木の切れ目から、小さな池と小川が見える。
その周りは緑の芝生になっていた。
「いいね」
アタシは水筒の入ったリュックを背負い直し、楓のハーネスから伸びる綺麗なリードをきゅ、っと握りしめた。
母のハムサンドって本当に美味しいんだよね……。なぜかはわからないのだけど。
池は、近づくほどにきらきらと光った。
池から流れ出る小川のほとりのカキツバタの紫が綺麗で、黄色いミモザの足元にクチナシの白が控えめに揺れていた。




