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「少しずつ、思い出さない時間を増やそうと思うんだ」
サブローは丁寧に脛を濡らしたソーダをふき取り、「いいハンカチだね」と言った。
「いつだったっけな。何かの時にシュウジがくれたやつ」
海の色の青いハンカチ。確か、小学校の時の遠足か何かのお土産だったかもしれない。母とお揃いで、薄手ですぐ乾くハンカチ。下級生の子がお茶を零しちゃった時とか、シュウジが怪我をした時とかにも肌あたりが良くて役に立った。
サブローは、「洗って返すね」と言って寒そうなハーフパンツのポケットにハンカチを仕舞った。
……——ホーリーチェリーのこと。
……IOP消失のこと——。それを思い出さない時間……
「……そう、かもしれないね」
シュウジの楽しそうな顔……幸子の穏やかな笑顔——……こんな風景を見ていると、今この時間が大切なものに思えてくる。
「でも」
サブローも眩しそうに……サングラスの下の瞳がどんな風なのかはわからないけれど、きっと穏やかな表情をしているように思った。
「……罪悪感がある?」
そんな風に言われるとそうじゃない気がする。
けど……
「みんな、きっとそうなのかもしれないよね」
アタシの応えを待たずに、サブローはそう言った。
「うん……」
アタシはそれだけ言った。




