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「わからない……」
エリアBの検査室のマジックミラーの向こうに、赤いウサギの姿が見えた。
向こうからは、安心して検査が受けられるように、ウサギが好む森の中の風景が映し出されているらしい。
アタシは幸子と並んで、ウサギの検査の様子を見ていた。
マックスはAIdだ。
アタシも、楓の姿形が変わってしまった時、果たしてそれを楓だと、すぐに気づくことが出来るだろうか……。
大切な存在であればあるほど、思い出が深くて、イメージが色濃く残ってしまう。
その姿形や、居振る舞いが大きく変わってしまったら——。
それは思い出の中の存在と、同じと気づくことが出来るのだろうか。
……幸子に何も声をかけてあげられないアタシは、その代わりに幸子の手を握った。
「ありがと、ミカ」
幸子はもう一度、検査室を見つめる。
「少し、怖がってるね、あのこ。……リエナさんは優しい人みたいだけど」
リエナさんの手が触れる度に、マックスは目を伏せた。
無理もない。
自分がこれからどうなるかわからない恐怖は、人も、AIdも同じである筈だ。
「宗ちゃんがね、お迎えしてもいいって言っててさ」
「ゴーグルおじさんが?……ミカのうち、楓ちゃんいるもんね。……でもさ」
幸子の応えを、アタシは気づいていた。




