486
「姉、生命維持バリアの上に、アクアフルールも展開してください」
「わかった」
アタシは傘みたいに、アクアフルールを頭上に展開した。
「僕を守ってね」
「ま、まぁ姉だしね」
「じゃ、行こう」
ゆっくりと歩き出した弟の付き人みたいに、アタシは早足で歩く。
「たぶん大丈夫だよ」
「たぶん、ね……」
でも、アタシもそんな気がしていた。
「なんか、歩いて行ったら結構遠くない?」
「……怖いよね」
弟は歩みを止めない。
荒野の乾いた土が、アタシのチェルシーブーツをさくさくと受け止めた。
「……ねぇ、なんでアタシなの?」
会場には宗ちゃんもジュンも居た。弟が手を取る相手は、もうアタシじゃないと分かってる。
「怖かったから」
「……え?」
「母がいたら、母だったかもしれないけど。やっぱ家族だし」
アタシはそれ以上聞かなかった。
「だいじょぶだって!」
そんなのわかんない。けどアタシが弟に言ってやれる言葉はそれだった。
「うん。大丈夫大丈夫。それは分かってんだけどね。ひとりじゃ怖いじゃない」
「アンタもそう思うんだ」
「子どもですもの」
「っそ」
弟は一人でも大丈夫だと思う。アタシなんかよりよっぽど。
それでも、アタシたちがやろうとしていることは、……アタシたちの正義だ。




