475
「ね、アパートに帰ろ」
幸子は急に言った。
「……いいよ」
アタシはハンモックを降りた。
幸子は毛布に包まっていてもプリズムを放っていた。
ライブを来週に控えて、やる気を取り戻したのかもしれないと思った。
「楓ちゃんに会いたいし」
けどそうじゃないってわかった。
このところ、留守にしがちな地下基地の木造風アパートは、今日もいつものように、懐かしく佇んでいる。
スチール風の階段をカン、カン、と上がり、幸子は当たり前のように我が家のドアを開けた。
温かいお味噌汁の匂いと、畳の香りに深い息が零れる。
「おかーさん、ただいまー☆☆☆」
「幸子ちゃん、ミカ、おかえり!!!」
いつも元気な母は今日も元気で、HyLAの事務職の制服をきちんと身に着けていた。
「お米炊いてあるから、おにぎりにしてもいいし、卵かけご飯にしてもいいし」
「わーい☆☆☆」
「ありがと」
「仕事行くね」
「いってらっしゃい☆☆☆」
「うぃ」
アタシたちは丁寧に手を洗って、ごはんをよそい合った。
楓が足元をうろついたけど、久しぶりにやたらにお腹が空いていた。
アルミサッシの擦りガラスを透過した光が、プリズムとなって楓のゲージに光を落としている。
「おなかいっぱーい☆コーヒー飲みたいなー……」
「だね」




