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04
幼い頃、弟の小さい手のひらに乗っていた楓。
楓は、三年間の時を経て、凶暴な消し炭から、優しい猫になった。
獣のような体は、弟の優しさに呼応するように、可愛らしい猫へ。
グレーの、ふわふわの体。
形の良い三角の耳。
ピンク色の小さな鼻。
琥珀色の瞳。
野生のAIdは野生のAIdを呼んでしまう。
母はすぐに楓のペット登録をしてくれた。
ペットって言っても、楓は家族だけどね。
こんなアタシに懐いてくれる存在は、他にない。
野生のAId……。
人類はAIdを創り出し、AIdは進化を続けた。
やがて、人類の進化を、追い抜いてしまうほどに。
人類が御しきれないAIdは、ディストレス。
苦しみをもたらす敵として、人類の暮らしを脅かした。
30日後、日本のエリア栃木にホーリーチェリーが咲く。
野生のAIdの集合体。毒と破壊を撒く美しい桜。
その開花は、人類の滅亡を意味する。
開花を止める術も、破壊に対抗する術も、人類には——……。
無い。