464
——病院のベッドの上で、私は窓の外を見ていた。
美しい夜景と、ネイビーグレーの空に浮かぶカシオペア。
まるで何もなかったかのように、過ぎていく時間……。
電気ポットのお湯が沸く音がして、ピピッ……と合図が鳴る。
「幸子、ほうじ茶でいい?」
私が好きなのはココアだけど、今は飲む気がしなかった。
「……うん」
雪姉のほうが傷が深いはずなのに、私は甘えていると思う。
——それでも、何もする気になれなかった。
真っ赤な、普段私が選ばない色のマグカップに、濁った色のほうじ茶が揺れる。
私はだまって口をつけた。
少し火傷したけど、そんなことはどうでも良かった。
「…………」
雪姉は丸椅子に姿勢よく座って、絵本なんて読んでる。不思議な瞳の猫の絵本。色が……綺麗だった。
「どこに……いったんだろ……」
「マックスのこと?」
どうでもよかった。
でも、そんなことを訊いてしまった。
「マックスは……|AId《エイド》だからね」
雪姉は絵本から目を離さずに、綺麗な黒い髪を耳に掛けた。
AIdの全てのことは解明されていない。IOP政府、それから先駆者の雨沢博士が、急速に解明してはいるけれど。
政府に、ペット登録をすれば良かったのか……やり方を訊く人なんて、いなかったけれど……




