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月明かりが、海の上で揺れていた。
どのくらいの時間、こうしていただろう。
海の匂いが、ずうっ……としてる。
時々、IOPスカイアクアラインのほうから、警察のサイレンが鳴ったり、してる。
けどそれ以外は……、静かだ。
いつも温暖なIOPだけど、夜と共に砂が冷たくなってきて、私のこころも冷たくなってくる。
マックスの毛並みだけが、今、暖かい。
「古代はさ、うさぎが月に住んでたなんて言ってた人たちがいるんだよ」
私はマックスのふさふさの背中を撫でる。
遠くに、白くて大きな船が、灯台の灯りに照らされたのが見える。
「あれ、乗ったことある。昼間ね。私の誕生日。ちょっといい服着てさ。ケーキとか、おいしい紅茶とか飲んでさ」
マックスはふんふんと砂の匂いを嗅いでいる。
私は抱き上げて膝に乗せた。
「寒い?ごめんね。でも帰るところが無いからさ——」
嘘。
IOP中央病院のスタッフの人たちはみんな優しい。SPのサクラさんも。こっそり抜けてきて悪いことした。
お父さんもお母さんも居る。
「でもさ、みんなが揃うコトなんて無いんだ」
お姉たちは、仕事がある。
でも私は、これが私だって言えるものが、なにもない。
遠くに、カシオペアのWが光ってる。
マックスの瞳に、灯台の灯りが……




